エルヴェ・ル・テリエ『異常(アノマリー)』
加藤かおり訳
ハヤカワepi文庫
立ち寄った本屋で真っ赤な表紙が目につき興味を惹かれて購入したのが数か月前。最初の10ページだけ読んで「殺し屋が活躍する話か」と放置したままになっていた。ハラハラするようなサスペンスを読みたくなって久しぶりに続きを読みはじめて驚いた。なんだこれ。思ってたのと違うぞ。
あらすじはこの本の魅力が半減してしまう恐れがあるので書かないが、すごい仕掛けがある本だった。
正直前半部分は冗長に感じて何度か読むのをやめかけた。どうも期待していたサスペンスではなさそうな雰囲気だし、フランスで大ベストセラーになり、権威ある文学賞「ゴンクール賞」も受賞したという評価には首をかしげるような淡々とした展開が続く。
ところが、小説全体の3分の1を過ぎた頃、すべての章にちらほら登場する共通のキーワードがはっきりしてきたあたりから物語は一気に加速しはじめる。
そして異常に気づくのだ。
そこからは、ただただ先が気になってあっという間に読んでしまった。この段階になってやっと前半部がきいてくる。「異常」を境に物語が反転するのである。舞台や文章の形までもが変わって様々な趣向がこらされる。
改めて振り返ると、フランスらしさ全開の本だったなと思う。
フランスは風刺の文化が盛んな国だと聞くが、この本も例外ではない。宗教、国際社会、人間の愚かさなどに関する皮肉や風刺が存分にこめられている。でも嫌味な感じはあまりせずむしろ粋のようなものを感じた。
ほとんどの登場人物が恋愛に悩んでいるのもザ・フランスという感じがした。ステレオタイプのフランスイメージとかじゃなくて本当にそうだったのかと戸惑うほどだ。それにしても性愛が主軸に展開する話が多すぎやしませんか?さすがアムールの国…
「異常」への対処法や、ダイナミックな展開などは海外ドラマをみているような感覚で楽しめた。それでいて小説ならではの仕掛けも随所にこらされている。読書で未知なる体験をしたい方にはおすすめの一冊。



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